年間 300 億円以上が騙し取られている
警察庁の統計によると、特殊詐欺の被害総額は年間 300 億円を超えています。1 日あたり約 8,000 万円が詐欺犯の手に渡っている計算です。この膨大なお金はどこに消えるのでしょうか。被害者が振り込んだお金は、複雑な経路をたどって犯罪組織の資金に変わります。その流れを追ってみましょう。
ステップ 1: 被害者からお金を集める
詐欺グループは主に 3 つの方法でお金を集めます。それぞれの方法には、追跡を逃れるための工夫が施されています。
- 現金の手渡し: 受け子が被害者の自宅を訪問して現金を受け取る。振り込め詐欺の中でも「オレオレ詐欺」で多い手口。受け子は被害者と顔を合わせるため逮捕リスクが高く、使い捨ての人員が使われる
- 銀行振込: 他人名義の口座 (「飛ばし口座」) に振り込ませる。口座は犯人自身の名義ではなく、買い取った他人の口座や偽造身分証で開設した口座が使われる
- 電子マネー・プリペイドカード: コンビニで購入させ、カード裏面の番号を電話で聞き出す。番号さえ分かれば即座に換金できるため、犯人にとって最も手軽な方法
近年は暗号資産 (仮想通貨) での送金を求めるケースも増えています。暗号資産は匿名性が高く、海外への送金も容易なため、犯罪組織にとって都合の良い手段です。
ステップ 2: 足がつかないようにする (マネーロンダリング)
集めたお金は、追跡を逃れるために複雑な経路で移動させます。この過程を「マネーロンダリング (資金洗浄)」と呼びます。
- 出し子による ATM 引き出し: 飛ばし口座に振り込まれたお金を、出し子が ATM で現金として引き出す。ATM の防犯カメラに映るため、受け子と同様に使い捨ての人員が使われる。1 回の引き出し上限があるため、複数の ATM を回って短時間で全額を引き出す
- 口座の転々移動: 複数の飛ばし口座を経由させて追跡を困難にする。A 口座→B 口座→C 口座と転送するたびに追跡の難易度が上がる
- 暗号資産への変換: 現金をビットコインなどの暗号資産に変換して匿名化する。海外の取引所を経由させることで、日本の捜査機関が追跡しにくくなる
- 海外送金: 海外の口座に送金して日本の捜査が及びにくくする。特に東南アジアの国々に送金されるケースが多い
犯罪組織はこれらの手法を組み合わせ、お金の流れを複雑にすることで捜査の手を逃れます。被害者が振り込んでから数分〜数時間で現金が引き出されるため、口座凍結が間に合わないことがほとんどです。
ステップ 3: 犯罪組織の資金になる
最終的に、お金は犯罪組織の運営資金になります。詐欺で得た収益の使い道は以下のとおりです。
- 詐欺グループの運営費 (レンタルオフィス、携帯電話、名簿の購入、SIM カードの調達)
- メンバーへの報酬 (かけ子、受け子、出し子への分配。ただし末端メンバーの取り分は全体の 10〜20% 程度)
- 上位組織 (暴力団など) への上納金
- 次の犯罪の資金 (新たな名簿の購入、飛ばし口座の調達など)
- 幹部の生活費や遊興費
末端の受け子や出し子が受け取る報酬は 1 回あたり数万円程度ですが、組織全体では 1 件の詐欺で数百万円を騙し取ります。リスクを負うのは末端、利益を得るのは上層部という構造です。詐欺電話の犯人の実態で、この使い捨て構造をさらに詳しく解説しています。
「飛ばし口座」とは
詐欺に使われる銀行口座は、犯人自身の名義ではありません。「口座を売ってくれたら○万円」と持ちかけて他人から買い取った口座や、偽造した身分証で開設した口座が使われます。これを「飛ばし口座」と呼びます。
自分の口座を売る行為は「犯罪収益移転防止法」違反で、5 年以下の懲役または 300 万円以下の罰金です。「使わない口座を売るだけ」でも重い犯罪です。売った口座が詐欺に使われた場合、詐欺の共犯として追加の罪に問われる可能性もあります。SNS で「口座買います」という投稿を見かけても、絶対に応じないでください。
お金を取り戻すのが難しい理由
振り込んだお金は数分〜数時間で引き出されてしまうため、取り戻すのは非常に困難です。「振り込め詐欺救済法」という法律があり、犯人の口座が凍結されて残高がある場合は返還を受けられる可能性がありますが、実際には口座凍結が間に合わず、残高がゼロになっていることがほとんどです。
だからこそ「振り込む前に気づく」ことが最も重要です。一度振り込んでしまったお金を取り戻すのは、宝くじに当たるより難しいと言っても過言ではありません。不審な電話を受けたら、お金を動かす前に必ず家族や相談窓口 (#9110) に相談してください。振り込め詐欺の予防策を事前に知っておくことが最大の防御です。
被害に遭ったらすぐにやるべきこと
万が一お金を振り込んでしまった場合、1 秒でも早く行動することが重要です。以下の手順で対応してください。
- 銀行に連絡する: 振込先の銀行に電話し、口座の凍結を依頼する。振り込んだ直後であれば、出し子が引き出す前に凍結できる可能性がわずかにある
- 警察に通報する: 警察相談専用電話 (#9110) または最寄りの警察署に被害届を提出する。通話履歴、振込明細、犯人とのやり取りの記録を証拠として保全する
- 消費生活センターに相談する: 消費者ホットライン (188) に電話すると、最寄りの消費生活センターにつながる
被害届を出すことは、自分のお金を取り戻すためだけでなく、同じ手口で他の人が騙されるのを防ぐためにも重要です。警察は被害届の情報をもとに犯罪グループの捜査を進めます。電話詐欺の通報ガイドで具体的な届け出手順を確認してください。緊急通報が必要な場合は 110 番に電話してください。
犯罪収益を断つための社会の取り組み
犯罪組織の資金源を断つため、さまざまな対策が進められています。銀行では口座開設時の本人確認が厳格化され、不審な取引を検知するシステムが導入されています。ATM での 1 日の引き出し上限額の引き下げや、高齢者の高額振込時の声かけも実施されています。
暗号資産の分野でも、取引所に対する本人確認 (KYC) の義務化や、不審な取引の報告義務が強化されています。しかし、海外の規制が緩い取引所を経由されると追跡が困難になるため、国際的な連携が課題となっています。
まとめ
詐欺で騙し取られたお金は、飛ばし口座→ATM 引き出し→暗号資産変換→海外送金という経路で消えていきます。犯罪組織は複雑なマネーロンダリングの手法を駆使し、捜査の手を逃れます。一度振り込んだお金を取り戻すのはほぼ不可能。「お金を振り込む前に、必ず誰かに相談する」が最大の防御です。