PSTN (Public Switched Telephone Network) とは、従来のアナログ方式の公衆交換電話網です。銅線ケーブルを使って音声信号を伝送する仕組みで、1890 年の日本初の電話交換業務開始以来、100 年以上にわたり電話通信の基盤として機能してきました。電話交換機と中継回線で構成される巨大なネットワークです。
VoIP との根本的な違いは通信方式にあります。PSTN は回線交換方式を採用しており、通話が確立されると発信者と着信者の間に専用の物理回線が確保され、通話中はその回線を占有します。通話品質が安定する反面、回線の利用効率が低く、通話していない時間帯も回線が占有されるため無駄が生じます。VoIP はパケット交換方式で、音声データを小さなパケットに分割して共有回線で伝送するため、回線の利用効率が高くなります。ただし通話料の水準は事業者ごとの料金設計で決まるため、方式が変わればそのまま安くなるとは限りません。
NTT は PSTN から IP 網への移行を 2024 年 1 月から地域ごとに段階的に進め、2025 年 1 月までに完了しました。この移行は「固定電話のメタル IP 化」と呼ばれ、利用者にとって電話番号や使い方は基本的に変わりません。裏側の技術がアナログの回線交換方式からデジタルのパケット交換方式に転換されたものです。移行に伴い、ISDN のデータ通信機能 (INS ネット 64/1500 のデータ通信) は終了しましたが、音声通話は引き続き利用可能です。マイライン (通話事業者の事前登録) も廃止されました。
NTT は IP 網移行後も固定電話サービスを継続しています。ただし固定電話 (加入電話 + ISDN) の契約数は 1997 年度の約 6,300 万から 2023 年には約 1,400 万まで減り、通話の主役は携帯電話や IP 電話へ移りました。固定電話を新たに用意する場合は、銅線の加入電話をそのまま引くのか、光回線を使うひかり電話にするのかが実務上の分かれ目になります。ひかり電話移行ガイドで移行の手順を確認できます。
PSTN の強みは信頼性の高さで、アナログ回線の電話機では停電時でも電話局からの給電で通話を継続できる点が特長でした。移行の直接の背景には、交換機の製造終了と保守部品の調達難という設備老朽化の問題があります。IP 網移行後も電話番号や基本的な使い方は変わりませんが、ダイヤル Q2 など一部の付加サービスは IP 網では提供されず終了しています。一方、光回線を使う IP 電話では、光回線終端装置 (ONU) やルーターに電力が届かなくなるため、UPS (無停電電源装置) などのバックアップがなければ停電時は通話できません。