クーリング・オフとは、特定商取引法が定める消費者保護の仕組みで、電話勧誘販売や訪問販売で契約したあと、法定の書面を受け取った日から一定期間内であれば、理由を示さずに申込みの撤回や契約の解除ができる権利です。不意打ち的な勧誘でその場の勢いで結んでしまった契約について、頭を冷やして考え直す時間を確保するための制度です。ただし営業のためもしくは営業として行う取引など、同法の適用除外 (第 26 条) に当たる契約には及びません。
行使できる期間は取引類型によって異なります。電話勧誘販売は第 19 条の書面 (その日より前に第 18 条の書面を受け取っていればその書面) を受領した日から起算して 8 日間 (第 24 条)、訪問販売も同じく 8 日間 (第 9 条)、特定継続的役務提供は 8 日間 (第 48 条)、訪問購入は 8 日間 (第 58 条の 14)、連鎖販売取引は 20 日間 (第 40 条)、業務提供誘引販売取引は 20 日間 (第 58 条) です。いずれも起算点は契約した日ではなく法定の書面を受け取った日なので、書面が交付されないままであれば期間は始まりません。
通信販売 (ネットショッピングなど) には、この制度は用意されていません。広告を見て自分の判断で申し込む取引であり、不意打ち性がないと整理されているためです。代わりに、広告に返品の特約を表示していない場合は、商品の引渡しを受けた日から起算して 8 日を経過するまで申込みの撤回や契約の解除ができ、返送に必要な費用は購入者の負担とされています (第 15 条の 3)。返品特約が表示されているときは、その特約の内容が優先します。
通知は、書面または電磁的記録によって行うことができます (第 24 条第 1 項)。電磁的記録とは、電子的方式や磁気的方式など人の知覚では認識できない方式で作られ、電子計算機による情報処理に用いられる記録のことで、メールや Web フォームを通じた通知もこれに当たります。効力は書面または電磁的記録による通知を発した時点で生じるため (同条第 2 項)、期間の最終日に投函または送信したものでも有効です。はがきで出す場合は両面の写しを取り、特定記録郵便や簡易書留のように発送した日付が記録に残る方法を選ぶと、後から届いていないと言われたときに備えられます。
成立した場合、事業者は損害賠償や違約金を請求できず (同条第 3 項)、商品の引取りや代金の返還に必要な費用も事業者の負担となり (同条第 4 項)、受け取った金銭は速やかに返還されます (同条第 6 項)。すでに商品を使っていても、使用により得られた利益や提供された役務の対価を請求されることはありません (同条第 5 項)。工事などで元の状態が変わっている場合は、無償での原状回復措置を求められます (同条第 7 項)。これらに反して申込みをした側に不利な特約は無効とされているため (同条第 8 項)、契約書にクーリング・オフはできないと書かれていても、その記載自体が効力を持ちません。撤回に関する事項について事実と異なることを告げられたり、威迫されて困惑したために期間内に行えなかった場合は、事業者が改めて交付する是正書面を受け取った日から起算して 8 日間となります。期間が過ぎた契約でも、勧誘の内容に虚偽があったときは民法の詐欺による取消しや消費者契約法に基づく取消しを主張できる場合があります。ビッシングや強引なテレマーケティングで不本意な契約をしてしまったときは、消費者ホットライン (188) に相談し、起算日と書面の記載内容を一緒に確認してもらうのが確実です。電話勧誘に関する権利の全体像は特定商取引法で守られる電話勧誘の権利にまとめています。