電話によるストーカー行為の実態
警察庁の統計によると、ストーカー事案の相談件数は年間約 2 万件に達し、そのうち電話やメールによる「つきまとい等」が全体の約 40% を占めています。電話によるストーカー行為は、非通知電話による無言電話、執拗な着信、脅迫的な内容の通話、深夜・早朝の繰り返し発信など、多様な形態で行われます。被害者の精神的苦痛は深刻で、不眠、うつ状態、PTSD を発症するケースも報告されています。
ストーカー規制法 (正式名称: ストーカー行為等の規制等に関する法律) は 2000 年に施行され、2013 年と 2016 年、2021 年の改正を経て、電話やメール、SMS、SNS を利用したストーカー行為にも対応できるよう拡充されています。2021 年改正では GPS 機器を用いた位置情報の取得も規制対象に追加されました。本記事では、電話によるストーカー行為に対して利用できる法的手段を、手続きの流れに沿って解説します。ストーカー電話への基本的な対処法もあわせてご確認ください。
ストーカー規制法の適用条件
「つきまとい等」に該当する電話行為
ストーカー規制法では、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で行われる以下の電話行為を「つきまとい等」として規制しています。
- 面会・交際の要求 - 電話で繰り返し面会や交際を求める行為
- 無言電話 - 電話をかけて何も言わずに切る行為を繰り返す
- 連続した電話 - 拒否しているにもかかわらず、繰り返し電話をかける行為
- 深夜・早朝の電話 - 社会通念上不適切な時間帯に電話をかける行為
- 粗野・乱暴な言動 - 電話で怒鳴る、脅す、暴言を吐く行為
- 名誉を害する告知 - 電話で中傷や名誉毀損にあたる発言をする行為
これらの行為が「反復して」行われた場合、「ストーカー行為」として刑事罰の対象となります。1 回限りの行為は「つきまとい等」に該当しますが、「ストーカー行為」には該当しません。ただし、1 回の行為でも警告の対象にはなります。
適用の前提条件
ストーカー規制法が適用されるためには、行為者の動機が「恋愛感情その他の好意の感情」またはその「怨恨の感情」に基づいていることが必要です。単なる営業電話や嫌がらせ目的の電話は、ストーカー規制法の直接の対象外となります。ただし、営業電話は特定商取引法、嫌がらせ電話は刑法の脅迫罪や迷惑防止条例など、他の法律で対処可能です。迷惑電話のブロック方法で、まず物理的な防御策を講じることも重要です。
警告の手続き
警察への相談
ストーカー電話の被害を受けたら、まず最寄りの警察署の生活安全課に相談してください。相談時には以下の証拠を持参すると、対応が迅速になります。
- 着信履歴のスクリーンショット (日時と番号がわかるもの)
- 通話録音データ (ある場合)
- 嫌がらせの記録ノート (日時、内容、頻度を時系列で整理)
- 相手との関係性を示す資料 (元交際相手の場合は交際期間など)
電話嫌がらせの証拠の残し方を参考に、相談前に証拠を体系的に整理しておきましょう。ストーカー対策の法律ガイドで事前に法的知識を身につけておくと、警察との相談がスムーズに進みます。
警告の発出
警察は被害者の申出に基づき、ストーカー行為者に対して「つきまとい等をやめるよう」警告を発出できます。警告は書面で行われ、行為者に直接交付されます。警告に法的拘束力はありませんが、多くのケースで警告後に行為が収まるとされています。警察庁の統計では、警告を受けた者の約 70% がその後の行為を中止しています。
警告の発出までの期間は、通常 1〜2 週間程度です。緊急性が高い場合は、より迅速に対応されます。
禁止命令の手続き
禁止命令とは
警告を受けても行為が収まらない場合、または警告を経ずに直接、都道府県公安委員会が「禁止命令」を発出できます。2016 年の法改正により、警告を経ずに禁止命令を出すことが可能になりました。これは緊急性の高いケースに迅速に対応するための改正です。禁止命令は警告よりも強い法的効力を持ち、違反した場合は刑事罰 (2 年以下の懲役または 200 万円以下の罰金) が科されます。
禁止命令の内容
禁止命令では、以下のような行為の禁止が命じられます。
- 被害者への電話、メール、SNS での連絡の禁止
- 被害者の自宅、職場、学校周辺への接近の禁止
- 被害者の関係者 (家族、友人、同僚) への接触の禁止
禁止命令の有効期間は 1 年間ですが、更新が可能です。命令に違反した場合は、逮捕・起訴の対象となります。
禁止命令の申立て手順
禁止命令は被害者が直接申し立てるのではなく、警察が公安委員会に対して発出を求める形で手続きが進みます。被害者は警察に対して禁止命令の発出を要請し、警察が証拠を収集した上で公安委員会に上申します。被害者が準備すべきことは、証拠の提供と被害状況の詳細な説明です。通話録音の法的ガイドを参考に、証拠を適切に保全してください。
保護命令と刑事告訴
DV 防止法に基づく保護命令
ストーカー行為者が配偶者や元配偶者、同居の交際相手である場合は、DV 防止法 (配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律) に基づく保護命令を裁判所に申し立てることができます。保護命令には以下の種類があります。
- 接近禁止命令 - 被害者への接近を 6 か月間禁止
- 電話等禁止命令 - 電話、メール、SNS での連絡を禁止
- 子への接近禁止命令 - 被害者の子への接近を禁止
- 親族等への接近禁止命令 - 被害者の親族等への接近を禁止
保護命令に違反した場合は、1 年以下の懲役または 100 万円以下の罰金が科されます。DV 防止法の保護命令は裁判所が発出するため、ストーカー規制法の禁止命令 (公安委員会が発出) とは手続きが異なります。
刑事告訴
ストーカー行為が反復して行われた場合、ストーカー規制法違反として刑事告訴が可能です。ストーカー行為罪の法定刑は 1 年以下の懲役または 100 万円以下の罰金です。禁止命令に違反した場合は、2 年以下の懲役または 200 万円以下の罰金に加重されます。2013 年の法改正により、ストーカー行為罪は親告罪から非親告罪に変更され、被害者の告訴がなくても検察が起訴できるようになりました。
刑事告訴を行う場合は、弁護士に依頼して告訴状を作成してもらうことをお勧めします。告訴状には、被害の事実、証拠、行為者の特定情報を記載する必要があります。
被害者が取るべき具体的な行動
安全確保を最優先に
法的手続きと並行して、自身の安全確保を最優先にしてください。
- 電話番号の変更を検討する (キャリアに相談)
- 非通知着信の拒否設定を有効にする
- 迷惑電話フィルターサービスを導入する
- 自宅の防犯対策を強化する (防犯カメラ、二重ロックなど)
- 信頼できる人に状況を共有し、孤立しない
電話番号のプライバシー保護を徹底し、番号の再流出を防ぐことも重要です。家庭用防犯カメラの設置も、ストーカー行為の抑止と証拠収集に有効です。着信拒否設定と転送電話を組み合わせれば、特定番号からの着信を自動的に遮断しつつ、重要な電話は受けられる環境を構築できます。
相談窓口の活用
- 警察 (110 番 / #9110) - 緊急時は 110 番、相談は #9110
- 配偶者暴力相談支援センター - DV に関する相談と一時保護
- 法テラス (0570-078374) - 無料法律相談と弁護士費用の立替
- よりそいホットライン (0120-279-338) - 24 時間対応の相談窓口
迷惑電話の通報先と届出手順も参考に、複数の窓口を並行して活用することで、より迅速な対応が期待できます。
まとめ
電話によるストーカー行為に対しては、ストーカー規制法に基づく警告・禁止命令、DV 防止法に基づく保護命令、刑事告訴など、複数の法的手段が用意されています。被害を受けたら一人で抱え込まず、警察や弁護士に速やかに相談してください。証拠の収集と保全を日頃から行っておくことで、法的対処の実効性が格段に高まります。安全確保を最優先にしながら、法的手段を適切に活用して自分自身を守りましょう。